日本の公害問題と環境問題

  • エネルギーと環境問題

昨今、ハイブリッド自動車や電気自動車といったCO2排出に配慮したエコカーや省エネ家電の普及、カフェやコンビニでは紙ストロー導入や、レジ袋の有料化が始まるなど、環境に配慮した商品や活動が日常に増えてきています。

環境問題」と問題視をされていますが、もともとは「公害問題」と呼ばれるものも多くありました。ここでは「公害問題」から「環境問題」へとなった流れと、今直面している問題について述べていきます。

公害とは

公害とは、人為的な活動によって引き起こされる環境汚染のことを指します。具体的には、大気、水、土壌などの自然環境において、有害物質や物理的な影響が生じ、人の健康や環境に悪影響を与えることです。

公害は環境省が制定した「環境基本法」で、「環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。)に係る被害が生ずることをいう」と定義づけられています。

 

こう聞くと、「公害」と「環境問題」の違いについて疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、公害は環境問題の一部であり、密接な関係にあります。

 

近年では「環境問題」というワードの方が聞きなじみがあるかもしれませんが「環境問題」を知るうえで「公害」も知ることが非常に大切です。まずは「公害」と「環境問題」の歴史について詳しく説明していきます。

歴史のはじまり

環境問題の歴史は第二次世界大戦前、明治時代から昭和初期にかけてまで遡ります。

 

近代化が進み、様々な技術が発展していく中で、最初に問題となったのは栃木県足尾地域で発生した「足尾銅山鉱毒事件」です。

「公害の原点」として歴史の教科書に載るほどに、大きな公害事件となったこの事件では、銅の精錬時に発生する排煙や鉱毒ガスが大量に排出され、付近の森林を枯らしました。さらに鉱毒が川や用水路を通じて周辺の水田に流れ込んだことで、作物の育成に悪影響を与え、地下水や井戸水も汚染。鉱毒を含んだ水や作物を摂取することで人体にも取り込まれ、住民に健康被害が生じました。足尾銅山は1973年には閉山しましたが、長期にわたる鉱毒の影響が今でも残っており、地域の環境や農作物に悪影響を及ぼしています。

参考 NGO団体 八ッ場あしたの会

 

このように多くの被害が生じたにも関わらず、公害問題がここで終わることはありませんでした。第二次世界大戦後は、さらに経済の発展を促すべく、工業化が進行。

 

ビニールなどの原料となるアセトアルデヒドを製造する工程で発生する毒性が強いメチル水銀が、工業廃水として阿賀野川の水を汚染(水質汚濁)したために起きた水俣病は、新潟(「新潟水俣病」)と熊本(「水俣病」)で発生。そして、石油化学コンビナートから排出された、二酸化硫黄による大気汚染を原因とした「四日市ぜんそく」と、亜鉛を製錬した後に出るカドミウムを含んだ排水が、神通川に流れたために水質汚濁と土壌汚染を招き、人体に被害をもたらした「イタイイタイ病」。

 

これらは四大公害と呼ばれ、企業の生産活動の中で発生した有害物質が、周囲の住民に大きな被害を与えたため、多大なる社会問題となりました。

環境問題への発展

公害と聞くと「もう過去の話だろう」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

確かに上記で述べた「公害」は、被害者と加害者が明確となっており、被害地域も限定的となっています。しかし、経済成長が生んだ公害は他にも多くあるのです。

 

例えば、現在私たちが当たり前に使っている自動車は排気ガスを生み、大気汚染問題を引き起こしています。食べ残しやシャンプー、食器用の洗剤などは生活排水として流れていき、水質汚濁、海洋汚染となります。

企業の生産活動だけでなく、私たちのような一般の人の日常生活が公害問題の原因となり、加害者と被害者が分けられなくなりました。このように人の活動に伴って生じる大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、悪臭、騒音、振動、地盤沈下を、環境基本法では「典型七公害」と呼んでいます。この深刻な問題の対策をすべく、「公害対策基本法」や「環境法」が整備されました。そして1971年には、環境庁(現・環境省)が発足され、徐々に公害問題は改善されていったのです。

 

しかし、経済成長は止まることはなく、地球温暖化オゾン層の破壊などといった、地球規模の問題と発展。

 

公害も環境問題の一部ではありますが、加害者と被害者の関係が明確になっており、法律の制限等で解決することができるのが公害です。

一方、環境問題は誰もが加害者であり、誰もが被害者である、地球規模での問題です。根本は豊かな生活のための消費活動なので、法律の制限をかけること自体が難しく、解決も困難であるのが現状です。

現在日本が抱える問題とは

ここまでは環境問題の歴史について述べてきました。現在の日本でも、公害問題は存在しますが、過去に比べると様々な法律の制定により徐々に改善している問題もあります。逆に、まだまだ改善されておらず、深刻化している問題もあります。ここからは日本が抱えている問題に焦点を当てていきます。

ケース1:日本が抱えるゴミ問題

日本におけるゴミ問題は、多様化する消費生活に伴い、増大し続けています。

高度成長期にプラスチック製品の普及が進みましたが、腐敗しないプラスチックは埋め立てることができないため焼却処理が行われており、その結果、酸性ガス等を含む煤塵を排出したため、大気汚染となりました。その結果、酸性雨が降るようになりました。

 

バブル期に入ると、生産活動がさらに拡大したため、廃棄物排出量が増加。ペットボトルの普及が始まったり、家電製品の発展が進んだりと、新たなゴミ問題を生みました。

廃棄物の増加により、既存の処理場の容量がひっ迫。ごみの焼却炉からダイオキシン類が発生していると認知されることとなったのもこの時期だったため、住民による反対運動などが起き、新しい焼却処理場を作ろうにも住民の合意が得られず、問題は深刻化しました。さらに、処理がしづらい家電製品などの増加は不法投棄等の横行を増加させ、結果として土壌汚染となったのです。

そして、2018年、中国がプラスチックゴミの輸入を禁止としました。資源ごみとして、主に中国へと輸出を行っていましたが、中国でのごみ処理やリサイクル体制が十分に整っていないため、土壌汚染等が問題となり、禁止へと踏み切ったのです。

プラスチックは行き場をなくし、そのほかのゴミも処理が追い付かない状態へとなっているのです。

ケース2:ヒートアイランド現象

ヒートアイランド現象は、都市の気温が都市以外の気温よりも高くなる現象のことを指します。日本では、人口密集地域に多くの都市があり、その中でも東京や大阪などの大都市圏では、特に顕著に見られます。

 

環境省の調査によると30年前(1980年~1984年)と現代(2006年~2010年)の30℃以上時間数の分布を比較した際に、多くの地域(東北、関東、中部、近畿、四国・中国、九州地方)で30℃以上時間数が増加し、高温の領域が拡大していたとのことです。

ヒートアイランド現象に伴う気象への影響としては、都市の乾燥化、都集中豪雨の増加などがあるとされていますが、現状だと明確な関係性は分かっていません。しかし、一方でヒートアイランド現象と大気汚染が密接に関係しているのではないかという指摘も多く出てきています。

 

ヒートアイランド現象による影響としては、日中に気温が極端に上昇することで、熱中症患者が増加します。環境省によるデータでも都市部は熱中症患者が多いとされています。

また、日中だけではなく夜間の影響も大きく、熱帯夜が増えているとのこと。日中は大気層の発達に伴い、熱が上空へ拡散されますが、夜間は大気層の発達が弱く、熱が拡散されずに地表付近に留まってしまうことが原因だと言われています。

出典 環境省

ケース3:自然災害も環境問題のひとつ

2018年の夏は40度を超える猛暑。2019年8月には九州北部で観測史上初となるような豪雨を記録(台風15号)。9月に上陸した台風は記録的な大雨(台風19号)、と甚大な被害をもたらしました。このような気候変動は、普段、生活していても感じる方は多いかと思います。

 

これらの原因のひとつとして、地球温暖化があげられます。

ゴミ処理や自動車などに必要なエネルギーを得る過程で、二酸化炭素などの温室効果ガスが増加。温室効果ガスは太陽からの赤外線を吸収し放出し、大気が温めます。全くない状態では気温が急激に下がるので、それはそれで問題ではありますが、過多な状態だと、気温が上昇し、現在のような猛暑となるのです。

また、気温の上昇により大気中の水蒸気が増え、雨が降ることになります。雨の原因である低気圧などの変化が大きくなかったとしても、水蒸気が増えた分だけ、大雨の頻度が徐々に増えていくのです。

 

どうしてそこまで温室効果ガスが増えてしまったかというと、やはり経済の発展、というところまで遡ることになります。人が生きやすいために行われた活動により、気候まで変動させているのです。

公害への対策。ひとりひとりがやるからこそ

ここでは3つ例に挙げましたが、私たちの暮らしやすさを優先したがゆえに地球が悲鳴を上げていることはお分かりいただけたでしょうか。

 

経済の発展により、はじめは私たちの周辺だけで起きていた公害が、地球規模の環境問題へと発展しました。私たちが生きるためには消費活動は当然伴います。ですが、その消費活動を少し見直すだけで、現状を改善することができるのです。

 

例えば、ごみ問題を改善するには「3R」。 Reduce(量を減らす)、Reuse(繰り返し使う)、Recycle(再利用する)の頭文字をとった取り組みですが、最近ではRefuse(不要なものはもらわない)、Repair(修理して使う)の二つを追加した、「5R」が提唱されています。2020年7月1日から「レジ袋有料化」が始まったように、減らせるゴミはまだまだあります。

 

他にも、シャワーの際や、洗い物をするときは水の使用量を少し気にしたり、エアコンの温度は上げすぎ・下げすぎに注意したり、私たちにも身近でできることはたくさんあります。

環境問題というと大きな問題ではありますが、ひとりひとりが解決へ意識を向けて、活動していかなければなりません。