環境分野に取り組むCDPとは?概要と日本企業の状況を紹介します

  • エネルギーと環境問題

企業や自治体の環境への取り組みをスコアリングし、投資家などへの情報開示を行うCDP。ここではCDPの概要や取り組むメリット、日本企業の取り組み状況についてご紹介します。

 

CDPとは

CDPは企業や自治体の活動が環境に与える影響についての情報開示システムを運用するイギリスの非営利団体です。「経済の環境への影響を透明化することで環境破壊を食い止めよう」という考えの下、2000年に設立されました。世界中の企業、自治体がCDPにデータを提出することによって環境関連の情報を開示し、機関投資家や取引先の企業、政策決定者はそのデータを活用して意思決定を行っています。現在世界で590以上の機関投資家がCDPを通じた企業への情報開示申請を行っており、世界の時価総額の5割以上にあたる9,600以上の企業が情報開示に応じています。今やCDPを通じた情報開示は世界経済におけるグローバルスタンダードです。

 

情報開示の仕組み

CDPは主に機関投資家と企業の間、もしくは取引のある企業同士の間に立ち、環境に関する情報開示のプラットフォームを提供する役割を担っています。情報開示の流れは以下のとおりです。

①年に一度、環境に関する質問書を作成し、機関投資家や取引先の企業から情報開示要請のあった企業に送付

②質問書への回答をもとに各企業の環境インパクトを分析、スコアリング

③各企業の回答内容とCDPの基準によるスコアを機関投資家らに開示

これにより、機関投資家や取引先の企業は複数の企業の環境インパクトを比較することが容易になり、環境に関するデータをビジネスの意思決定などに活用することができるという仕組みです。

なお、機関投資家などから回答要請を受けていない企業であっても、CDPを通じて自主的に情報を開示することが可能です。

 

質問書の内容

CDP質問書の内容は気候変動、水セキュリティ、フォレストの3つの分野に分かれており、各企業はそれぞれ求められた分野について回答し、評価を受けます。質問書の形式や内容は毎年改訂され、特に2018年からは気候関連情報の開示を求めるTCFD提言に準拠した質問内容となっています。また、環境に対して影響力の大きい産業の企業に対しては、一般的な質問に加え、その産業に特化した質問が加わります。

以下では質問書の3つの分野について見ていきましょう。

 

気候変動

気候変動の分野では、気候関連問題の社内での管理体制、自社のみならずサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量、その削減目標や削減実績などが問われます。

 

フォレスト

フォレストの分野では、森林減少の要因の80%が農地への転用であることをふまえ、木材、パーム油、牛製品、大豆(+天然ゴム、ココア、コーヒー)の4つを森林リスクの高い商品と位置付けています。そこで、対象となっている商品の生産、調達状況を把握しているか、またその詳細について問われます。

 

水セキュリティ

水セキュリティの分野では、自社とバリューチェーンでの淡水・淡水以外への依存度、取水量・排水量・消費量などが問われます。また、水不足が発生している地域で多くの水を使用していないかなども項目の一つとなっています。

 

評価について

CDPによるスコアはA、A-、B、B-、C、C-、D、D-の8段階に分かれています(無回答企業のスコアはF)。

スコアの意味合いは以下のようになっています。

 

スコア

評価の意味合い

A、A-

リーダーシップ
・環境問題をどのように解決しようとしているか

B、B-

マネジメント
・どのように環境問題によるリスクや影響を管理しているか

C、C-

認識
・環境問題が自社の事業にとってどのような影響をもたらすか

D、D-

情報開示
・現状の把握

 

DからAに近づくにつれ、企業や自治体が環境問題への当事者責任を果たしていることを意味します。

 

回答するメリット・デメリット

情報を必要とする機関投資家などに大きなメリットがあるCDP質問書ですが、回答する企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのか見ていきましょう。

 

メリット

・環境問題に関わるリスクと機会を把握できる

質問書に回答するにあたり、まずは自社の状況を把握する必要があります。そのプロセスにおいて改めて自社のリスクと機会を知ることができるため、環境問題を考慮した戦略を策定することができます。

 

・企業競争力の向上

質問書への回答と評価は世界中の機関投資家や企業に公開されます。環境問題への取り組みを他社と比較されることになりますが、高い評価を得ることができればさらなる投資を受ける機会が生まれ、また企業イメージの向上も期待できます。

 

・複数の要請元に情報開示ができる

企業はCDP質問書に回答することで、複数の投資家・取引先企業に対する情報開示を完了させることができます。

 

デメリット

・回答事務費用がかかる

CDPは非営利団体であるため、参加企業と投資家が費用の一部を負担する仕組みになっています。3つの質問書のいずれか一つ以上に回答する場合には、年間の回答事務費用を支払う必要があります。

費用は得られる特典によって三段階に分かれており、

Subsidized contribution:97,500円

Standard contribution:272,500円

Enhanced contribution:650,000円

となっています。

 

・手間がかかる

CDP質問書に回答を行う場合、質問項目に合わせて自社の状況を把握し、回答を作成しなければなりません。日本語での回答も可能ですが、グローバルスタンダードであるがゆえに英語での回答が推奨されていることもハードルの一つです。

情報公開に取り組む企業をサポートするための取り組みとして、CDPでは回答の参考となる資料の公開やウェビナーでの解説を行っています。

 

日本企業の取り組み状況

日本企業への質問送付は2006年から開始され、回答数、Aランク獲得数ともに増加しています。2020年度の情報開示では66社がAランクを獲得し、国別のAランク企業数で世界一位となりました。ただし、回答要請に対する回答率は分野や業界ごとで差がみられ、今後さらに情報開示が進むことが期待されます。

2020年度は花王と不二製油グループ本社の2社が気候変動、フォレスト、水セキュリティの全ての分野でAランクの評価を獲得しました。

 

その他のプログラム

上記のCDP質問書は企業に対して環境関連の情報開示を求めるものでしたが、CDPはそれ以外にも複数のプログラムを運用しています。

 

CDPキャピタルマーケッツ 

CDPキャピタルマーケッツは投資家の署名を集めるプロジェクトです。署名することでCDPが持つ様々な企業の環境情報にアクセスできるようになるとともに、署名自体が環境問題への関心の高さの表明に繋がります。

 

CDPサプライチェーン

サプライチェーン全体での環境負荷の低減を目指すためのプロジェクトで、企業がCDPを介してサプライヤーに環境情報の開示を要請できるものです。現在加盟している企業は全世界で200組織を超えています。

 

CDPシティ

質問書や他のプロジェクトとは異なり、企業ではなく自治体が自らの環境情報を開示するためのプラットフォームです。自治体がCDPシティを通じて情報開示を行うことで、情報開示のプロセス自体が持続可能な都市、地域を作るための道筋となり、また環境問題に取り組むほかの都市や企業との連携が促進されます。

 

 

情報開示のために自社の環境インパクトを知ることは、それを管理し、環境問題に対処していくための第一歩となります。回答することによるメリットも多数ありますので、CDPのガイダンスなどを活用しながら回答してみてはいかがでしょうか。