天体観測への影響だけではない!?    身近な環境問題「光害」について

  • エネルギーと環境問題

過剰もしくは不適切に設置された照明が影響でさまざまな影響が出る「光害(ひかりがい)」。

環境にどのような影響が出ているのか、対策はどのようなものがあるのかを詳しくお伝えします。

 

「光害」はどのようなもの?

「光害(ひかりがい)」の名前から、なんとなくどのような環境問題なのか想像できる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、実際にどのようなことが問題になっているのかピンとこない、そんな方に向けて具体的にどういったことが問題なのかを説明していきます。

 

光害は、その名の通り光に関する環境問題です。

 

私たちの生活には必要不可欠となっている夜の照明。

その照明器具から出る光が、過剰な明るさであったり、不要な方向に漏れてしまったりすることで人や生物、研究などに悪影響を及ぼすことを指します。他にも周辺にそぐわない明るさや色であること、不要な時間にも関わらず常についている照明や、不適切な場所に設置されている照明によって悪影響が出てしまうことも光害に含まれます。

 

「光害」の影響について

1.周辺の居住者への影響

道路に設置された街灯や、道沿いにある看板照明の光が住居内へ強く差し込むと、安眠の妨害やプライバシーの影響に繋がることがあります。光の強さによっては遮光カーテンであっても光を通してしまい、外から居住者の様子が見えてしまうことも。

また、もともと住んでいた地域に照明が設置され、明るくなりすぎてしまうといった報告もあります。器具によっては光量の調整が難しいものもあり、長期間強い光が差し込むがことストレスに繋がり、体調やメンタルの不調に繋がってしまいます。

 

2.野生動物や植物への影響

野生動物や昆虫は種によって光に引き寄せられたり、逆に光を嫌い、逃げてしまったりする習性の種がいます。特に夜行性生物の住処に及ぼす影響は大きく、個体数の減少に繋がっているのではないかと言われています。

東京農工大学の学生が修士論文研究のために、屋外照明の影響を受けない山中で、ライトトラップの調査をした際、光に引き寄せられた昆虫が多かったそうです。しかもそのうち10種類は絶滅危惧種の昆虫。昆虫類のほかに、アマガエルやネズミが多く集まり、そこに集まった昆虫を捕食。このように光に集まった昆虫を捕食する動物も多いため、人工照明が多いエリアでは昆虫が食べつくされてしまうのではないか、また昆虫の減少によって捕食する動物も減ってしまうのではないかと危惧されています。

 

他にも、ホタルは街灯などの人工照明があると、交配相手が見つけられなかったり、ウミガメが産卵する際にも人工照明があると産卵場所の砂浜に行きづらくなってしまったりと、野生生物への影響は少なくありません。ただ、こういったことは広範囲に光害として認識されることは少ないため、対応が遅れる原因になりひどい場合には放置されてしまいます。

 

3.交通への影響

強すぎる照明は、自動車やバイクを運転するドライバーの視界を悪くする原因のひとつです。

強い光のせいでドライバーが歩行者を見失ったり、信号や標識に気が付けなかったりと、交通事故のリスクを高めます。また逆に歩行者にとっても視界が狭まる理由のひとつです。たとえば、曲がり角を曲がったところに強い光源があると、目が光に慣れるまで時間がかかり、事故に繋がってしまいます。

 

4.研究・教育活動への影響

光害のせいで夜空が明るくなってしまい、天文に関する研究教育活動にも影響を及ぼしています。

星の観察の際に重要なのは「夜空の明るさ」。一般的には夜空の明るさが低い方が星の観測条件はいいとされています。

夜間の光は、大気中でさまざまな方向に漏れるため、過剰な光は星の観測を妨げる大きな原因になります。また、大気汚染等によりエアロゾル(気体中に浮遊する微小な粒子など)が分布していると、散乱はさらに大きくなり、天体観測の質がかなり落ちてしまいます。

 

5.エネルギーの浪費

電気を使うということはその分、エネルギーを使っているということです。他社より目立とうと明るさを競ってしまうと大幅なエネルギーを浪費してしまいます。

2022年には戦争の影響等により、東京都内の電力がひっ迫し、電気の節約が呼びかけられました。そんな中で適切ではない照明があると、消費するエネルギーが増えることはもちろん、周囲の節電の士気まで下がってしまいます。

照明を減らしたり、光量を減らしたりすることは、光害の対策になるだけでなく、節電にもつながり地球環境の保護にもつながります。

 

「光害」への対策

国による対策

環境省では平成10年に「光害対策ガイドライン」を発表しています。

このガイドラインは、光害の定義や夜空の明るさの調査結果をはじめとし、街路照明器具のガイドラインや、屋外照明等設置時のチェックリスト等、光害を増やさないための情報が詳細に載っています。

具体的な対策例としては、色や光量の調整が安易で省エネ効果もあるLEDライトへの取り換えや、不要な範囲まで光が届かないようにカバーをつける、深夜や早朝には消灯・減光させる等があります。

 

下記URLより確認できるので気になる方はチェックしてみてください!

https://www.env.go.jp/air/life/hikari_g/index.html

地方自治体による対策

多くの地方団体が光害への取り組みを行っていますが、その中でも星空で有名な長野県の取り組み事例をご紹介します。

「ながの環境パートナーシップ会議」は、長野市の市民、事業者、行政などによる協働の環境保全のためのプロジェクトです。目標設定、現状把握、行動計画、行動指針を定め、それぞれ進行されています。

 

光害は理解されにくい面もあるため、イベントを開催し市民への啓発を実施。たとえば、プラネタリウムでのコンサートとともに光害についての講義を行ったり、キャンドルナイトを開催し、そこでのPRを行ったりしています。

こういった活動を通じて、民間からも光害について問い合わせがあり、活動が徐々に普及しています。

個人でできる取り組み

企業や団体にしか対策ができないと思われがちですが、私たち個人ができる対策もあります!

 

光害は身近な環境問題であり、一人一人の意識が重要な意味を持ちます。そのため、まずは光害について理解を深めること、また、広めていくことが重要になります。

身の回りに光害となっている照明がないかを確認したり、より理解を深め、身近な人に「こういうものが、こういう影響を及ぼしてしまうようだ」と広めたりすることは非常に有効な活動です。知る人が増えれば増えるほど、関心を持つ人や実際に対策を始める人の数も増えていきます。

また、私たちひとりひとりが意識すべきことは、光害をなるべく抑えるために、本当に必要な照明だけを使うということです。ただ漠然と空間を明るくするのではなく、本当に必要な明るさを見極め、環境への影響を最小限に抑えるために無駄な光は最大限でカットすることが大切です。屋外ランプにモーションセンサーをつけたり、屋外の照明にカバーをつけたりするなど、家庭内でも適用ができます!

また、不適切ではないかと思われる照明器具を見つけた際に、企業や自治体に問い合わせをすることもとても有効です。

 

小さなステップに見えますが、実際に取り組むことには非常に大きな価値があります。

 

海外ではすでに光害に関する法律ができています。

これからは他の公害と同じように、光害への対策が必須になってくるのではないでしょうか。

法律で決められずとも、少しのことから活動をはじめ、環境に優しく私たちも過ごしやすい夜をつくっていくことが大切です。