気候変動が『睡眠障害』を引き起こす?! ~地球温暖化による思わぬ弊害~

  • エネルギーと環境問題

近年、世界中で睡眠障害が増加し、睡眠不足が長期化することによる健康への影響が深刻化しています。同時に、気候変動も多岐にわたる領域に影響を与えており、これらの問題には何らかの関連があるのでしょうか?

本記事では、気候変動と睡眠障害との関係、それらに起因して引き起こされる様々な影響について解説します。

 

 

気候変動は睡眠障に影響している?

睡眠障害は、私たちの日常に深刻な影響を及ぼす問題です。仕事、コロナ禍など特殊な生活環境によるストレス、テクノロジーの進化による影響など、さまざまな要因が絡み合って引き起こされますが、一般的にはストレスなど精神面による影響が大きいと言われています。しかし、最新の研究では、 気候変動と睡眠障害の間にも興味深いつながりがあることがわかってきました。

 

 

気候変動が睡眠に及ぼす影響

76年後には50~58時間の睡眠が消失?

気候変動の進行に伴い、コペンハーゲン大学の研究チームが行った世界各地の人々の睡眠時間と外気温の調査によれば、 2099年までには1人あたり平均して年間50〜58時間もの睡眠が失われると予測されています。

 

この研究では、ケルトン・ミーノア氏らのチームが68カ国の4万7000人以上の成人を対象に、加速度計を使用して平均6ヶ月間の睡眠時間とタイミングを調査し、環境科学の専門誌に結果が報告されました。

 

成人に必要な睡眠時間は通常7〜9時間とされており、外気温が25度を超えると睡眠時間が7時間未満になる確率が3.5ポイント上昇することがわかりました。 気温が30度を超えると、平均して1晩あたり15分の睡眠が短縮されると報告され、気温上昇による影響は特に低所得地域や高齢者、そして女性に顕著にみられました。

 

睡眠不足は集中力の低下や健康リスクを引き起こす可能性が高くなり、対策としてはエアコンの利用が挙げられますが、これは貧困地域では難しいことが多く、また、温室効果ガスの排出にも繋がります。持続可能な解決法として、緑化建物やZEH(net Zero Energy House)をはじめとする環境に配慮した建物の設計など、温暖化対策への取り組みが求められています。

 

出典:CNN

 

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アート×自然×テクノロジーが創るサステナブルな未来

 

 

気候変動がもたらす「睡眠格差」

デンマーク・ドイツの研究によれば、外気温と睡眠には密接な関連があります。30度以上の暑い夜では平均14分の睡眠減少があり、25度以上では7時間未満の睡眠確率が上昇。特に 低所得国では影響が3倍になり、気温上昇により年間平均44時間の睡眠不足が生じ、公衆衛生上の問題となる可能性があります。気温上昇が続くと、この影響が増加し、気候危機が不平等を悪化させる可能性も指摘されています。

 

気温と睡眠の関連は低所得国で特に強く、気温の高い地域では1度あたりの「睡眠損失」が大きくなりました。これが気候変動の影響であると考えられ、 2010年までに気温上昇により年間で平均44時間の睡眠不足が発生し、これが悪化の一途をたどっていることが推定されています。将来的には、気温の上昇により 年間50〜58時間の睡眠が失われ、平均13〜15日の短時間睡眠が生じる可能性があり、これは健康リスクと関連しています。

 

この影響は公平に分布せず、 既に暑い気候や経済的に困難な地域に住む人々がより大きな影響を受ける可能性があります。低所得国が既に気温上昇が進んでいる地域にあるため、南半球は気温上昇による睡眠不足の二重苦に見舞われる可能性があり、これは気候危機が不平等を悪化させる新たな側面を示唆しています。

 

 

熱帯雨林の減少の背後に潜む真実

気候危機への対処策として、多くの木を植えることが提案されていますが、実は、 熱帯林の状況では「伐採」ではなく「枯死」が主因となっていることが指摘されました。科学者たちは、気温変動が樹木の枯死に影響を与えており、これが大気中の炭素放出を促進していると考えています。特に 熱帯低気圧や「蒸気圧不足」が枯死と関連しており、気温上昇による水分不足が樹木の生存に影響を与え、炭素の悪循環が進行している可能性があると指摘されています。

 

出典: Nature

 

 

夜間の灯りと生態系への影響

一方で、気候変動と睡眠障害の関係を考える時、夜間の灯りも見逃せません。都市部では常夜灯が増加し、これによって夜の明るさが向上しています。 照明の明るさが眠りを乱すだけでなく、これが同時に生態系にも影響を及ぼしているのです。

 

人間と同様に、動植物も夜間の光の変化に順応しています。しかし、都市化が進み、森林が開発され、人間の生息地が広がるにつれて、動物の生息地と人間の環境が近づきました。これにより、動物たちにとって夜の暗闇が変化し、急激な光の変化が生態系にストレスをかけ、そのバランスを乱す可能性があります。気候変動と照明の影響が連動して、環境全体で睡眠障害を引き起こす可能性があることを示唆しています。

 

※動物と人の環境については、こちらもご参照ください。
クマ出没の増加 ~SDGsが問う人と自然の共存~

 

まとめ

睡眠障害と気候変動は、見かけ上は異なる問題のように感じられるかもしれません。しかし、これらは密接に結びつき、一方の問題がもう一方に影響を与える可能性があります。つまり、気候変動を解決することは同時に睡眠障害の問題の解決にもつながり、睡眠障害との連鎖を断ち切ることが求められます。

 

持続可能な未来を築くためには、個々人の意識改革と共に、大局的な環境への配慮が必要です。これによって、睡眠障害症の減少だけでなく、生態系への負荷も軽減され、地球全体がより持続可能な未来に向かって進むことが期待できるでしょう。

 

※気候変動についてはこちらも参照ください
「持続可能な未来のための雨水管理 ~エルニーニョと人工降水雨~」