【わかりやすい】パリ協定の概要と経緯、各国の取り組みについて

  • エネルギーと環境問題

パリ協定という言葉は聞いたことがあるけれど、実際はよく知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事ではパリ協定の概要や経緯、日本と各国の削減目標、アメリカの今後について解説いたします。

パリ協定とは

2015年、パリで開かれたCOP21で合意された協定です(採択は2016年)。パリ協定は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目的で、全世界で共通する国際的な取り組みのことをいいます。このパリ協定は先進国・途上国関係なく、すべての国で共通する目標であり、地球温暖化対策における基本となる方針です。

パリ協定の背景

1992年に採択された国連気候変動枠組条約以降、世界的に温室効果ガスの排出量を削減するべきだという議論がされてきました。今のままだと21世紀末には平均気温が4度上昇し、水不足や農作物の減少、干ばつや森林火災、海面の上昇など深刻な影響が出ると予測されています。温室効果ガス削減のために採択されたのが京都議定書であり、パリ協定はその後続となるものです。京都議定書以降、何度もCOPは開かれましたが各国の同意が得らえず国際的な目標は採択されませんでした。そしてようやく採択されたのがパリ協定なのです。

このようにパリ協定を理解するためには、「国連気候変動枠組条約」と「京都議定書」が欠かせません。

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)とは

1992年に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択されました。これは「大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を究極の目的とし、世界中で地球温暖化対策を取り組むことに合意したものです。現在は197の国と地域で締結・参加され、温室効果ガス削減の計画や実施、排出量の実績公表などを行っています。

そして、この条約を基に作られたのが「京都議定書」と「パリ協定」というわけです。

京都議定書とは・パリ協定との違い

京都議定書は、2008年~2012年の間に先進国(アメリカは合意していないため除く)の温室効果ガス排出量に関して、法的拘束力のある数値目標を各国ごとに設定し、国際的に温室効果ガス排出量の削減をしようというものです。

この内容を引き継いだのがパリ協定といっても良いでしょう。しかし、京都議定書とパリ協定には大きな違いがあります。それは、取組む国の違いです。京都議定書は先進国のみが対象でしたが、パリ協定は先進国・途上国を含むすべての国が削減目標の対象となったのです。今までは先進国と途上国で意見が分かれ、堂々巡りの議論がされてきました。途上国側の意見としては「先進国が排出してきた温室効果ガスをまず削減するべきだ」という内容です。そのため、すべての国で共通の目標を掲げるには厳しい状況でした。しかし、京都議定書が採択された後に経済成長を迎えた中国やインドなどの「新興国」が現れたことによって先進国と途上国の議論に変化が生まれ、アメリカ・中国が主導となりすべての国で共通の目標を掲げるパリ協定が誕生したのです。

パリ協定の概要

前段が長くなってしまいましたが、ここからはパリ協定の概要と知っておきたいポイントをお伝えいたします。

・目的と目標

目的は「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことです。そのために、「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとること」を目標としています。

・プレッジ&レビュー方式(目標と評価)とグローバルストックテイク(情報の棚卸)

削減目標は各国に任されており、自国でどの程度削減するかを設定します。この目標は5年ごとに更新され、前回目標を深堀した内容を提出しなければいけません。そして、削減状況は世界共通の評価基準によって第三者が平等で公正な評価を行います。また、5年ごとに国際的に実施状況を確認し、各国が取り組みを強化できるように情報交換を行う仕組みにしています。

・法的拘束力を持つが罰則はない

京都議定書と同じく法的拘束力を持つとしています。しかし、京都議定書と違う点は成果が出ていなかったとしても罰則を与えないところです。(罰則によって脱退されることを避けことが目的ではないかと言われている)罰則がないからこそ、5年ごとに削減目標をレビューし、洗練された目標を掲げるような仕組みになっています。

・途上国への資金支援

京都議定書でも行われていた緑の気候基金(先進国から途上国へ送られる基金)と呼ばれる資金支援は継続して行います。途上国が行う気候変動への対処を支援するための基金ですが、パリ協定からは支援能力のある国(主に新興国)からも自主的な資金支援することとされています。

・クレジット制度(市場メカニズム)

クレジット制度とは排出削減量を取引するシステムを指します。そして、パリ協定で行えるクレジット制度はベースライン&クレジット方式と二国間クレジット制度です。ベースライン&クレジット方式は温室効果ガスの削減事業を行った際、事業がなかった場合に比べた排出削減量をクレジットとして取引できる方式になります。

二国間クレジットは優れた低炭素技術や製品、システムやサービスを途上国に提供することで、途上国の温室効果ガスの削減や持続可能な開発に貢献し、その成果を二国間で分けあう制度です。

・脱退は表明の1年後

パリ協定脱退には脱退表明をしてから1年後に効力を有します。あとで触れますが、アメリカのパリ協定脱退が分かりやすい例です。なお、脱退後30日で再加入ができます。

日本の削減目標と各国の削減目標

2015年に提出された各国の(温室効果ガス排出量上位5ヵ国抜粋)削減目標をまとめましたのでご覧ください。

約束草案
中国 2030年までにGDP当たりCO2排出量60~65%減(2005年比)/2030年前後がCO2排出量のピーク
アメリカ 2025年に26~28%減(2005年比)28%削減に向けて最大限に取り組む
EU 2030年に40%減(1990年比)/再エネ比率を32%まで増加/エネルギー消費量をBAU比で32.5%削減
インド 2030年までにGDP当たり排出量33~35%減(2005年比)
日本 2030年度に2013年度比26%減(2005年度比25.4%)

目標時期が各国バラバラであることから比較が難しいところです。パーセンテージのみで見ると中国が60%と大きくみえますが、中国はGDPの成長率に対して目標を掲げています。中国のGDPは2030年に向けて増加する予測ため、実質負担がない目標とも言われています。

一方日本は、既に省エネ事業に取り組んでいたり、電源に関しては原発問題もあり火力に頼っていたりと削減するのが難しい状況であると考えられます。そこで二国間クレジットやエネルギーミックスの電源構成、更なる省エネ対策などが施策されています。

また、EUは上記目標達成のために、エネルギーを多く必要とする産業とそうでない産業に分け、目標を設定しています。エネルギーを多く必要とする産業には、市場で排出権の売り買い(EUの企業間)ができる仕組みを取っています。その他の産業は加盟国ごとに分担する仕組みとなっており、1人当たりのGDPを基準として目標が割り振られています。EU全体で取り組むことと国別で取り組むことに分けて行っているのが特徴です。

なお、EUは40%削減が目標でしたが、55%削減に引き上げることを表明するなど、世界をリードしているように見受けられます。

アメリカの脱退と今後

ここからは近年話題となっているアメリカの動向について触れていきたいと思います。

パリ協定が採択された当時はオバマ氏(民主党)が政権を握っていましたが、それがトランプ氏(共和党)に代わり、2019年11月4日にパリ協定を脱退すると宣言しました。その1年後の2020年11月4日にアメリカはパリ協定脱退となりました。しかし、バイデン氏(民主党)が大統領選に勝利したことによりパリ協定の復帰が予想されています。バイデン氏は就任初日にパリ協定復帰宣言をすると発言しており、今後のアメリカの動向が気になるところです。ちなみに、申請後30日で加盟国になれるので、就任初日に申請がされた場合、2021年2月19日より再びアメリカも加盟国になります。

さいごに

何も取り組みを行わないと2050年には平均気温が2℃上昇、2100年には4℃上昇すると言われています。まだ始まったばかりのパリ協定ですが、地球の未来を考えると絶対に成し遂げなければいけない国際的な枠組みです。他人事にならず、皆さんにもパリ協定について理解を深めて、この協定が今後どうなっていくのか?日本の取り組みにも、各国の動向にも注目していただきたいと思います。