牛のゲップは温室効果ガスが多い!?畜産業と地球温暖化

  • エネルギーと環境問題

牛のゲップは何が問題!?

ゲップとは、胃や食道から口へ向けて空気が逆流する症状のことを言います。私たちヒトも日常的に出していますよね。そんな「ゲップ」が地球温暖化の一因になっているってこと、ご存じでしょうか?

実は牛や羊、ヤギ等の「反芻動物(はんすうどうぶつ)」のゲップやおならにはメタンガスが多く含まれています。このメタンガスは二酸化炭素の25倍もの温室効果があると言われており、世界の温室効果ガスの4%が牛のゲップによるものと言われているのです。

どうしてメタンガスがゲップに含まれるの?

牛・羊・ヤギ・ラクダ等は、一度食べた食料をもう一度口の中に戻して再咀嚼し、反芻(はんすう)するため「反芻動物」と呼ばれています。

反芻動物は、胃が4つあり、食べた植物等の消化に時間をかけて何度も繰り返します。最大の大きさを持つ第一胃には、約8000種の微生物が住んでおり、分解が難しい繊維質も消化が可能です。胃の中では、エサが発酵し、メタンガスが発生しているため、動物たちは絶えずゲップをして体外に放出しています。牛の体内で発生したメタンガスは9割以上がゲップとして排出され、残りをおならで出していると考えられています。

どのくらいゲップをしているの?

「ゲップくらいならどうって事ないのでは?」と思ってしまいますよね。

体重600キロの牛の場合、なんとたった一日で500~600Lのメタンガスを排出しているのです。世界中で30億頭以上と呼ばれている家畜たちから出されるメタンガスは一日あたり1兆5千億Lで、これは東京ドームの1万2千杯以上に匹敵します。

こうして見ると、牛をはじめとした家畜のゲップは私たちの想像以上に環境に大きな影響を与えていることが分かります。

ゲップメタン削減への努力

近年、ゲップメタンを最小限にするために、多くの研究が行われています。目標としては8割減少を掲げ、さまざまな取り組みが行われています。

 

  1. エサの改良

豪州科学・工業研究機構(CSIRO)の研究で「カゲキノリ」を配合したエサを牛に与えたところ、90日間で98%もの削減が可能でした。ほかでも似た研究が行われており、豪ジェームスクック大学の研究で20種類の海藻をエサに配合して試したところ、一番効果があったのはカギケノリとなり、メタンの生産が99%近く減少したそうです。

また、カゲキノリを配合することによってエサの消費を抑えながら牛の成長を早めることができるようになります。

これはメタン生成のための消費されていたエネルギーを体内に取り込むことができるようになるため、エサの消費が少なくなると考えられています。より少ないエサで、より多くの牛の飼育が可能となり、さらに環境に優しい画期的な研究結果となりました。

天然のカゲキノリでは、量が少ないため、現在はカゲキノリの養殖について研究が進められています。

 

2.メタン排出量に個体差がある原因を究明するための研究

同じエサを同量食べても、発生するメタンの量に個体差があることが分かっており、メタンが少ない牛の胃の中にある微生物の研究が行われています。

メタンが少ない牛を見つけ出し、その牛から微生物を取り出し、サプリメントのようにメタンの多い牛の胃に送り込むことで、メタンの多い牛を淘汰できるのではないかと言われています。

 

3.エサやりのタイミングの研究

牛にカプセル型の機械を飲み込ませて、メタンがいつ、どのくらい発生するかのデータを収集する研究が行われています。メタン発生が少ないタイミングを見つけることで、メタン削減へつながると考えられています。

ゲップ問題以外の温暖化と畜産の関わり

ゲップに含まれるメタンガスの量を減らすことができれば、畜産の地球温暖化についての問題はすべて解決されるかというとそうではありません。実はほかにも問題があるのです。

穀物と比べ、エネルギーたくさん使う畜産

家畜を飼育するためには、ヒトの4~10倍ほどの食物が必要と言われています。

肉1kgを生産するためにエサとなる飼料用穀物が牛肉は11kg、豚肉は7kg、鶏肉は3kgほど必要と言われています。また、必要な水の量も1kgの小麦のために必要な水のなんと200倍以上が必要と言われています。このように穀物や水を大量消費する上、低い生産性となっているため、問題視され始めているのです。同じ広さの土地であっても収穫量の差は大きく、肉の重量を1とすると、豆はその10倍、芋は160倍もの収穫が可能と言われています。

 

また、世界的に草地が不足している中、家畜の飼育のために、森林が壊され続けています。

さらに工場式畜産の場合、畜舎の空調を調整するために、多くのエネルギーが使用されています。生産量をあげるために、電気を一日中つけっぱなしにしている農場も多くなっています。

 

エネルギー問題だけでなく、糞尿による土壌汚染も問題とされています。従来、家畜の糞尿は堆肥生産のため、3~4か月ほど空気曝露しますが、この際にメタンなどの温室効果ガスを排出してしまいます。

 

こうみると、牛をはじめとした家畜の飼育には問題ばかりかと思われますが、農業においては有益な側面が大きいといった声もあります。牛は排泄物から堆肥を作って、農作物を育て、それがまた牛を含めた家畜の餌になるため、循環型農業の優等生と言われています。現在、多くの農場で生産性向上のため、化学肥料で作物を育てており、従来は堆肥で補われていた有機物が土中から減り、耕地がどんどんやせてしまっていると言われています。ふたたび排泄物から作られた堆肥を利用することで、土地が生き返るのではないでしょうか。

畜産代替品が地球を救う!?

大豆ミートや穀物でできたミルクやチーズ等の畜産代替品の生産による温室効果ガスの排出量は、畜産品に比べると少なくなっています。また、畜産代替品は温室効果ガスの排出を減らすだけではなく、現在進行している食糧危機や水危機の回避にも貢献できるのではないかと言われています。その理由として、畜産品と類似品を同量生産する場合、類似品のほうが生産にかかるエネルギーが圧倒的に少ないことが挙げられ、水も他用途に利用することが可能です。

畜産品・畜産代替品どちらもいい点・悪い点があるため、用途にあったものを選んでいくといいのではないでしょうか。

 

普段は意識せず食べているお肉も環境問題と密接な関係にあることが分かりました。

こういったことをご家族やご友人と話し合うことも環境問題に向き合う大切な一歩となります。